「じゃあね、彩ちゃん。また今度……年明けかな?」
「そうね。初詣、一緒に行けたら行きましょ」

 仲良しメンバーで過ごしたクリスマスパーティも終わり、晟や有羽と四人揃って帰宅していた聖たちだったが、自宅へ向かう分岐路にさしかかった有羽は、彩に別れの挨拶を交わした。
 冬休みに入るため、また会える日が減ってしまう寂しさを抱いていた有羽だったが、彩の言葉ににっこりと笑顔を返す。

「うん!気をつけてね。って、神谷くんがいるから大丈夫か」
「いやいや、その聖に気をつけるって意味でいいんじゃないか?」
「晟、君じゃないんだから、大丈夫だよ」

聖をからかったつもりが返り討ちにあい、晟は動揺を隠せずにその言葉を否定した。そんな二人に彩と有羽は声に出して笑っている。
「あんまり邪魔しちゃ悪いから」と、気を使っているのかはたまた冗談なのかわからない口調で有羽は言い、晟の腕を引っ張った。
 何度となく見返り、手を大きく振って別れを惜しむ有羽たちの姿が見えなくなると、聖は彩に声をかけて歩き出した。

 楽しそうに今日のことを話す彩を微笑みながら見つめ、聖は耳を傾けていた。ふと彩が自分ばかり話していることに自粛(じしゅく)するような言葉を述べる。
 聖は楽しそうに話す彩を見ていられるだけで嬉しいのだと告げるが、その後に「でも」とつなげた。

「皆でのパーティも楽しいですが、二人きりになれる時間が帰り道だけだと、少し寂しいですね」

その告白に驚き、声を失う彩。それは、いつもの聖からは想像もつかないことで、彩は抱いた感想を素直に述べた。

「びっくりした。聖くんて意外とストレートなのね」

それに対し聖は小さく笑いを零し、彩に尋ねる。

「彩先輩にとって、僕はどういうイメージですか?」

突然の質問に彩は手を口にあて、歩きながらも考える仕草をとった。頭に浮かんだことをぽつりぽつりと言葉にする。

「え?えーと……言葉で表現するのって難しいわね。どんな聖くんでも、それが聖くんだっていう気もするし」
「すみません。困らせてしまいましたか?」

にっこりと笑って彩の手をとる聖。そして昔を懐かしむように言葉をつなげた。

「周りからはよくクールな印象をもたれるみたいです。どこか冷めてるとか、一歩引いて相手と接してるとか。でも、晟には面白い奴だと言われ、玖堂からは痛いところをつかれました」
「どんな?」
「その前に彩先輩に聞きたいことが。先輩には、自分の人生の中で大きな影響を与えた人っていますか?」

その問いかけに、すぐに思い浮かべた人がいた。彩はその人への気持ちをかみ締めるように、一度深く呼吸をした。

「ええ、いるわ。私にとっては聖くんをはじめに、今の仲間達皆にいい影響をもらってる。でも、一番は有羽だと思うわ。初めて逢った時、こういう人もいるんだなぁって驚いたくらい。とても素敵な人よね」
「彩先輩も素敵な人ですよ。友達を素直に褒められるのですから」
「ありがとう。聖くんは?」

聖にとってもそういう人がいるからこそ尋ねてきたことだと思い、彩は尋ねた。

「そうですね、僕にとっても一番は親友かもしれません」

何か思うところがあるのか、つないでる手に少し力が込められた。

「晟と出会う前の僕は、今よりももっとひねくれた性格をしていました。世界を狭く見ていたんです。晟は、そんな僕の道を開けてくれた」
「ふふ。私の有羽に対する想いと似てる気がするわ」
「玖堂は面白い人だ。今や、その晟に大きな影響を与えてしまうのだから。そして、彩先輩にもね」

くすりと笑って聖の言うことに頷く彩。確かに、晟は有羽のこととなると面白いくらい冗談がきかなくなる。

「聖くんは痛いところをつかれちゃうし?」
「参ったな……なるべくそっちへ話をもっていかないようにしてたのに」
「聞いたらまずかった?」
「いえ、話題をふったのは僕ですから。それに、先輩の前では自分を偽りたくない。たとえ嫌われるようなことになったとしても」

それに彩は少し驚いた顔をした。しかし聖は相変わらずの笑顔を浮かべている。

「玖堂にはこう言われました。僕は、宝物を自分でさえも触れないように、大切にしまうタイプだと。正直、驚きましたよ。洞察力が優れているのか何なのか、ある意味怖い存在ですね」
「聖くんはそういうタイプなの?」
「全部がそうとは言えませんが、そういう気持ちがあることに変わりはありません。僕は貪欲ですよ。彩先輩が思う以上に」

すっと向けられた視線に射抜かれたようだった。彩は聖の目を見つめたまま何も言えない。

「僕もそこら辺にいる男と何ら変わりはない。あなたを独占したいと思うこともあれば、浅ましい夢も見る。それにも増して、今日の彩先輩は普段よりも魅力的だ。僕がありのままの気持ちをさらけ出してしまうほどに。そんな素敵な彩先輩を、他の男の目に触れさせたくないんですよ」

そして思いのたけをぶつけるようにして、彩を抱きしめる。

「僕は、彩先輩を傷つけてしまうのが怖い。だから理解ある振りをして、あなたとの距離を一定に保とうとしていた。でも今日、その我慢が玖堂に知られてしまった」
「今日……?」
「晟と二人で買い物に行ったでしょう?それです」

聖の発言で、晟と一緒にクラッカーや帽子などのパーティーグッズを買い出しに行ったことを思い出した。聖などはそれぞれに用事があったため、手の空いていた晟とその役を引き受けただけなのだが、彩は驚いて息をのんだ。

 知らなかった。聖がそんな想いを胸に秘めていたとは。思い起こせば聖がどれだけ自分を大切にしているか、思い当たる節はいくつもあった。いくら鈍いと言っても、自分の弟にさえ聖との交際に気付かれないのだ。別に隠しているわけではなく、仲のいい先輩後輩にしか見えないように聖がしているのだった。

「こんな僕に気付いた玖堂は、笑って馬鹿だと言ってました。“彩ちゃんバカ”だって」

思わず笑いがこぼれ、彩はその意味を尋ねる。聖は頬を少し赤らめながら答えた。

「晟が彩先輩に本気になったら困るって……」
「くすくす。本当にバカね」
「彩先輩。──まあ、馬鹿は否定しませんけど」

新たな聖の一面に、溢れ出る笑いと感情を抑えることはできずに、彩はただ聖の腕の中で肩を揺らしていた。
ひとしきり笑うと彩はひょいと顔を上げて聖を見つめる。

「来年は二人で過ごそうね」

思いがけないセリフに、聖はしばし声を失った。

「って、気が早いかな?」

くすぐったさが込みあがり、彩は頬を染める。

「いえ──ぜひ、お願いします」

本当に嬉しそうに聖は微笑み、愛しき人を胸に抱いた。
そっと、その存在を慈(いつく)しむように……。

END

prologue
有羽と晟編
彩と実春編

 




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ABOUTこの記事をかいた人

言葉で傷つくこともあれば、救われることもある。言葉の力を信じて、文字だけで伝える「小説」で人生をプラスに変えることを使命とするインディーズ小説家。※画像は恋愛ファンタジー小説【アザナカミ】のヒロイン、玖堂有羽です