それは、ふと思ったことだった。本当に、何を考えていたわけでもなく、言葉にして思い浮かべていたわけでもなく、不意に口から零れ落ちていった──そんな感覚だった。

「有羽たちは彼に浮気されたらどうする?」

 突然の質問に二人は顔を見合わせるが、嫌な顔一つせずに少しだけそのことについて頭を巡らせていた。先に彩ちゃんが答える。

「想像でしかないけど、許せないと思うわ。別れるかどうかはわからないわね」
「だよね。よかったー。彩ちゃんも一緒で」

 その答えにどことなくほっとした。有羽は驚いたように「へー」と言い、「彩ちゃんをまた一つ知れて嬉しい」と冗談なのか怪し気な発言も残した。

「有羽は?」
「私は、どうもしない」
「何それ」

 相変わらず謎よね。有羽らしいっちゃらしいけど。

「なんていうんだろ?浮気ってさ、彼とその相手だけの問題じゃないと思うんだよね。私にも原因はあるだろうし……うーん。逆にさ、もし本当に性欲発散のためだとしたら相手に同情するかも。かわいそうじゃない?」
「は!?そこで相手に同情しちゃうの?」

 予想外のことに顎が外れそうになる。有羽は続けて。

「だって、外食したくなる時もあるんじゃない?そうだとしたら、その外食先に選ばれちゃった方が嫌だもん」
「いやいやいやいや。それは嫌だけど。えー」
「えー?浮気するかな?全然想像できないんだけど」
「それだけ信頼してるってことじゃないかしら?二人の関係って憧れるもの」

 彩ちゃんのフォローに照れくさそうにしながら喜ぶ有羽。いや、それはわかるけど、有羽のこの発言はいかがなものかと思う。

「どうもしないって、どういうこと?許せるってこと?」
「多分、許せるよ。どうもしないっていうのは、本当にどうもしない。問い詰めたりもしないし、誰にも相談しないと思う」
「誰にも?私達にも?」
「うん。ごめん。あ、でも信用してないとかそういうんじゃなくて、うーん、浮気するにも何かしら理由があると思うんだよね。必要なら彼から話してくれるだろうし。でもそれをしないってことは、話せない理由もあるんだよ、きっと」
「嫌われたくないとか、バレて仕事に支障を来たしたくないからじゃない?罪悪感があるとか別れたくないとか」

 思いつく理由をいくつかあげても、有羽は笑って「そうだとしても、何もしないよ」と答えた。

「彼が庇いたい何かがあるのに、それを私が壊してもいいってことにはならないから。秘密は言葉にして外に出した時点で秘密じゃなくなると思ってる」
「えー……それじゃツラくない?」
「多分ね。でも大丈夫な気がする。一人でふらっと出かけちゃうかもだけど」

「そうだとしたら絶対探しに行くから」と、仮定でしかない話なのに妙に心配になってそう口にした。有羽は明るく笑って「ありがと」とだけ返す。

「はー、長いこと付き合ってきたけど、今ほど有羽がわからなくなったことはないわー」
「ふふふ。まだまだですね、里紗さん」
「私なんて二人で食事も嫌だけど……えー……許容範囲狭すぎ?」
「いやいや、私だって嫌だよ?ただまあ、理解は出来るって話。どうしたって、男性は自分の遺伝子残そうって思ったら、多くの女性に自分の子供を産んでもらう方が効率がいいじゃない?本能として既に浮気するようになってるんだろうなって。それに、これは私の考えであって、だから浮気を許せって話じゃないもん。里紗は里紗で許せないっていうのでいいんだよ。そっちの方が女の子っぽいし」
「確かに。感情的に見えるしね」

「でも」と続けて彩ちゃんは言った。

「有羽は有羽でなぜ許せるのかっていうのはあるでしょ?浮気じゃなかったら許せないとか」

 それについては先程よりも深く長く唸りながら考え込んでいた。彩ちゃんの鋭いつっこみに「極論になっちゃうけどいい?」と断って、有羽は話す。

「私さ、小説を書く理由でも言ったけど、自分の経験や尊敬する人たちの考えとかすごいなって思うことを残しておきたいんだよね。つなげていきたいっていうか。その人が大事にしていることなら、もっと多くの人に知ってもらいたいって思うし、大切にしている人がいるなら自分も大切にしようって思う。経験だって、たとえそれが自分にとってツラいことでも苦しいことでも、自分には必要なことなんだろうし、きっと誰かの役に立つと信じてる。だから結局、浮気だろうがなんだろうが関係なく受け入れられそうな気がするんだよね」

 返す言葉が見つからなかった。何、この子。もう神の域だわ。
 正直、そんな風に考えられる有羽が羨ましかった。けれども、同時に友達でいてくれるありがたさを痛感する。

「なるほどね。だから有羽は浮気が許せるんだわ」
「でも、実際はわからないけどね。それに、許せない状態って私は続けられないんだ。自分でも他人でもさ、ずっと責めてても一歩も前に進めないもん。私は苦しいの嫌だし、じっとしていられないタイプだから、許せないでいるっていうのができないだけかも」
「そうだとしても、よ。素敵だわ」
「いやー。あと、私は自分に甘いってこともあるんだと思うよ」

 それはないでしょ。どこが甘いのよ。
 そう言おうとして、口を閉ざした。後に続いた言葉が、その動きを止めてしまったのだ。
 有羽は言った。

「浮気しやすそうな人を選んだのは自分なんだからって」

 

 

 
 

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Novel

99.7

音楽と共に選択肢によって進めるストーリー展開となっています。「アザナカミ」の世界観や主要キャラクターを知ってもらえればと思います

 

字守(旧ver.)

❚あなたの生きる意味は、必ずあるよ。

彼は残す、その力を、勇気を、智恵を。
私はつなぐ──その命を。

人の負の感情にとりつき、その感情を増殖させる『はく
実体はなく、精神を破壊するその存在は魔と呼ぶにふさわしかった。
魄にとりつかれた者は、感情を表す言葉を食われていき次第にその身を滅ぼしていった。
対して、その魔を浄化させる力を『おぼろ』と呼び、石を媒体として朧を操る人を『字守あざながみ』と呼んだ。

字守によって救われる人々。
しかし、人あらざるものの力──朧を使うことの代償は、同じく感情であった。
字守と魄。
相対する二つの力が、今ぶつかる──

 

目次

■第1話 謎の招待状
SCENE1:ざわつく心 / SCENE2:アクシデント / SCENE3:恐怖の始まり / SCENE4:出会い / SCENE5:飛行機ごっこ / SCENE6:記憶、力の暴発

■第2話 魄と朧と鬼と人形リーズ
SCENE7:意外な真実 / SCENE8:準備 / SCENE9:興味 / SCENE10:必要なこと / SCENE11:リーズという存在 / SCENE12:賭け / SCENE13:秘密

■第3話 鬼が消えた日
SCENE14:出発前 / SCENE15:出迎えた者は? / SCENE16:かわいい天使 / SCENE17:未知なる体験 / SCENE18:流天vs字守 / SCENE19:鬼の血

 

短篇集

❚色んな感情を疑似体験しよう。

現代ファンタジー、恋愛、人間ドラマ、青春、シリアスなど、多岐にわたるジャンルの短編小説を掲載。

■先生!恋愛小説の書き方教えてください
小説を書いたことのない私でも書けた。自分を知るために。──浮気をテーマにした小説の書き方の小説。
1 / 2 / 3 / 4 / 5(完)

私は『悪』になる
悪というのは、常に笑っていて、常に自信満々だ。必要悪である彼もまた、自分の正義を楽しんでいた。

契りの果ては
籠女かごめの話

15個のカノジョ
僕たちは二人で一人の作家であり、クリエイターであり、エンターテイナーだ。僕らは時にぶつかり、時に融合し、最後に壊した

廃棄処分にして下さい。
私は欠陥品だった。だけど、私は幸せだった。

僕の初めては113秒。
「楽しくもなくつまらなくもなく生きて、意味あんの?」その一言が僕を変えた。ある日、男はそう僕に言った。そいつと出会ってから僕は、毎日の「初めて」を切り取るようになった。そして気付いてしまった。僕に生きる意味はあるのだろうかと──

R18作品目次
性描写、または暴力的なシーンがあるため、年齢制限をつけました。目次が認証画面となりますので、必ず確認をして下さい。本編を読むためにはパスワードが必要です。

君がいたから
失って初めて気付く、その存在の大切さと秘めた想い。人を愛するというのは、どういうことか?を描いた恋愛人間ドラマ。★とある出版社のコンクールに出品し、『準入選』を頂きました★

女という性、紅の血
高校が舞台の恋愛ストーリー。彼女のいる人を好きになった野中泉のなかいずみ。彼女の起こす行動に主人公の聡子さとこは血が騒ぐのを感じた。女性は何故『思い出』を作りたがるのか?その真相を描きました。

麗らかな恋の花
短編恋愛小説。ほのぼのとしています。人は自分に足りないものを補い合うために出会い、別れを繰り返す。その中で誰か、何かを愛する。

 

Len*Ren

❚甘いひとときに包まれたい

※長編小説【字守-アザナカミ-】のキャラクターのアナザーストーリーです
・・・15歳以上推奨作品
■・・・全年齢対象作品(新作順)

 

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