「うー、寒い」

 手を擦(こす)りながら駅から流れ出してくる人の群れに、何度目かの視線を向ける。
 ようやく奥から手を挙げてこちらへ駆けてくる男性の姿を見つけると、彼女は安心したような笑顔になった。

「ごめん、待った?」

 遠藤遼太朗の問いに
「ううん。私もさっき来たところ」
 玖堂有羽は首を振る。

 二人は顔を見合わせて笑い合うと、歩き出した。
 街はそろそろ本格的にクリスマスで彩られ始めている。

「ね、ね。今年のクリスマスはどうする?また皆で集まる?」
「うーん、そうだなあ。それも良いけどさ……」

 少し歯切れ悪く話す彼の顔を有羽が覗き込む。と、そこへ北からの突風が容赦なく襲いかかってきた。

「うきゃー」

 慌ててマフラーを握り締めながら、何だか良く判らない悲鳴を上げる。
 落ち葉や土埃が舞い上がる大通りを外れ、遼太朗は有羽の腕を掴むと横道に引っ張り込んだ。

「ここなら風もあまり入ってこないから。有羽、大丈夫か」
「うん」

 髪を直したり服を掃(はら)ったりと大忙しの彼女。何とか整えると笑顔を浮かべて彼に向き直る。

「遼は優しいんだね。ありがと」

 お礼を言われれば悪い気はしない。いやあ、と頭を掻いていると
「でも本当、今日は寒いね。手袋をしてくるんだったかな」
 そう呟く彼女の言葉に、遼太郎がその手を取る。

「じゃあさ、こうしたら良いんじゃないかな。ほら、これなら有羽の手も温かいだろ?」

 言いながら握った有羽の右手を自分のコートのポケットに入れた。
 突然のその行動に彼女の頬が染まる。見上げるとにこにこ微笑んだ遼太朗の顔があった。

「確かにこれなら右手は温かいけど……」

 小さく唸ると、有羽は左手で彼の首に触った。

「こっちの手はどうするの?」

 その冷たさに遼太朗は飛び上がる。
 彼女の手を自分の首筋から引き剥がすと慌てたように言った。

「それは…えっと。有羽の右手が温まったら次は左手の予定なんだよ」

 その言葉を聞いているのかいないのか、有羽はけらけらと笑っている。

「ごめん、からかっちゃった」

 遼太朗の右手から自分の手を引き抜くと小さく舌を出した。
 そんな有羽を驚いたように見ていた彼も表情を崩し、笑い合う。

「行こうか」

 また二人でゆっくりと歩き出した。
 ポケットの中で繋がれた手が温かい。
 夕闇に包まれ始めた街にイルミネーションが点ると、先程と雰囲気が変わったようになる。
 そんな事を話しながら幸せそうに笑う二人が恋人同士になるのは、もう少し先のお話。

END

温もり|桜左近

 




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インディーズ小説家。橘右近の相方=心の友です。ファン第一号