「いつも私ばかりが会いたがってるから、諫美くんはどうなのかなって」

 桜が舞う風景の中でぽつりと有羽が呟く。
 満開を少し過ぎてしまったが桜の花見をしようと近所の公園に二人で来ていた。
 青空に桜と散り行く花びらが映えてなかなかに素敵な風景だ。
 しばらくそれらを眺めていたが、何かを思いついたかのように有羽は桜の木の下で手を差し出す。
 風に舞い散る花びらを掌(てのひら)に収めるために奮闘する女性を、少し離れた場所で薄い笑みを浮かべて見守る男性。

「先輩。それ必死で取って何か良いことあるの?」

 一枚も入手出来ず、恨めしそうに桜を見つめる彼女に近寄りながら聞いてみた。

「あるよ。願い事が叶うんだから」
「へー、そうなんだ。じゃあこれ、先輩にあげる」

 有羽の前に差し出された彼の手には桜の花びらが数枚乗っている。しかし彼女はそれを受け取ろうとはしなかった。

「ありがとう。でもごめんね。自分の願い事は自分で取ったのにしか効果が無いんだ」

 それは諫美くんが使って。
 そう言うと有羽はまた空中に手を伸ばした。
 必死になる彼女に、ふと視線を自らの掌に移す。

「願い事、ねぇ」

 左手に乗る桜色を見ながら思案してみる。しかし突然それは遮られた。

「取ったー!」

 目を向けると有羽がこちらに近寄ってきている。ほら、と差し出された手には一枚の花びら。

「本当だ。で、先輩は何を願うの?」

 今までハートマークを散らしていたような笑顔が曇る。
 何か変なこと言ったかな、と諫美が怪訝に思うと有羽は桜の花びらをぎゅっと握り締めて口を開いた。

「諫美くんは私のこと、どう思ってる?」

 唐突にそう聞かれて返事に窮(きゅう)するのは仕方の無いことだろう。

「どうって……」
「いつも私ばかりが会いたがってるから、諫美くんはどうなのかなって。会いたいってメールするのも、今どうしてる?って電話するのも、私だから」

 無理矢理私に合わせてもらっていたら、やっぱり悪いと思うし。
 そう吐露(とろ)していく有羽は不安で一杯だったのだ。自分の気持ちばかりが空回りしているのではないかと、ずっと危惧していた。
 今日、もし桜の花びらが取れたら勇気を出して聞いてみようと自らに誓った。そして手に入れた舞い落ちてきた一枚。
 途中から『取る』ことに夢中になってしまい誓いのことを忘れていたが、諫美の言葉で思い出した。
 自分の思いを打ち明けて彼からの答えを待つ間がとても長く感じる。
 彼女の言葉を聞いて、諫美は軽くため息を吐(つ)いた。

「先輩ってさ、せっかちなんだよね。気が早いっていうか……もっと落ち着けばいいのにって思うよ、本当」

 それから一つ息をして有羽を正面から見つめる。

「俺、先輩に会えてよかったって思ってるよ。俺が会いたいなって思う時にメールが来て、声が聞きたくなった時に電話が来る。そういうのって先輩も俺と同じ想いなんだなって思えてすごく嬉しいんだ」

 確かに俺はもらうばかりだけどさ。
 諫美は認めると小さく笑った。

「けど『俺も今そう思ってた』っていつも伝えているよね」

 そう言うと有羽は「そうだけど」と少し目を伏せる。

「でも、いつもそうだと分からなくなるの。どこまでが本気なのか」
「いつだって本気だよ」

 不安そうに口にする有羽を温かさが包んだ。
 冷静になれば俺がどれだけ先輩を想っているかすぐ判るのに。そう思いながら彼女を抱き寄せた。

「俺は有羽が好き。有羽がいなかったら生きていけないくらい愛してる。だからずっと俺の傍にいて。俺から離れないで」

 一度身体を離すと、赤らめた彼女の頬に手を当てて今度は顔を寄せる。
 言葉と唇で自分の想いを伝えていく。
 そっと離れると諫美は言った。

「今度は俺から連絡するから。約束」

 笑顔で小指を差し出すと、有羽も少しはにかんで指を絡める。そして突然「ゆびきり」の歌を歌い始めた。
 彼女の突然の行動に驚きながらも、子供の頃はよくしていたなと諫美もそれに倣(なら)う。
 歌いながら手を上下させる二人には、今まで漂(ただよ)っていた深刻な雰囲気は無くなっていた。
 諫美は笑う有羽を見ながら、心の片隅で先程手放した桜の花びらに願いを託す。
 ずっと彼女の傍に居られること。彼女と共に過ごしていけることを。
 有羽も彼と同じことを望んでいた。

「「ゆびきったー」」

 二人の笑い声が明るく響き渡る。
 風が吹いて舞った桜吹雪が恋人達の願望を包んで空へと運んでいった。

END

ねがいごと|桜左近

 




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インディーズ小説家。橘右近の相方=心の友です。ファン第一号