「魄は、私達にとって必要?」──講義の途中、そう発言した彼女は今、自分の目の前で親友でもある樫倉晟と談笑していた。
 晟が教室内に響き渡るような声を上げたため、その場にいた全員の注目を一斉に浴びた。しかし、そんな晟から皆の視線を外すように、有羽はこう質問したのだった。時間の関係上、講師である智孝の答えを聞くことは出来なかったが、代わりに次までの宿題となって終わった。

 今まで、敵や悪いものとして認識される存在に「必要であるか?」を問う人間は少ない。必要かどうかではなく、どう排除すべきかを優先して考えられてきた。しかも、字守を育成する機関であれば、どう魄を消滅させるか、しか考えない連中がほとんどだと思っていた。
 現に、自分が所属している魄の研究施設でも、どう人間に被害を出さずに浄化するか?という方法しか考えられていない。研究員の中にも魄を知っていく内に、己のしていることの正しさに疑問を持つ者はいるだろう。自分も恐らくそのたぐいに入ると思った。しかし、今まで自分と同じような思考をもつ人間に会ったことがなかった。
 いや、正確には一人しか会ったことがなかった。その一人と彼女との会話はどんなものだろう?と、神谷聖かみやひじりは声をかける。

「あ、聖。ちょうどよかった。お前のこと紹介しようと思ってたんだ」
「初めまして、神谷聖です」
「聖とは緋華見でずっと一緒だったんだ。中学くらいか?」
「そうだね」
「で、今は臍央せいおうにある研究所で魄の研究をしてる超エリート」

『超エリート』などと余計なものをつけて晟は紹介した。

「へー、すごいね。魄の研究っておもしろそう。どんなことしてるの? 実体がないのに、どうやって調べるのか気になる」

 やはり、晟と同様おもしろい人種のようだ。聖は、ふっと笑って答える。

「今度、研究所に来てみる?」
「え? いいの? うわ、やった! 一回でもいいから中に入ってみたいと思ってたんだよね」
「字守ならいつでも入れるよ」

 当然のことを口にしたつもりだったが、有羽は晟と顔を見合わせて何やら目で会話をする。

「うーんとね、私は字守もどきっていうか、補佐に近い感じかな? 普段は……普段は私何してるんだろ?」
「いや、知らないから」

 笑いながらそう返す晟に、有羽は小さく「あ」と呟いて手を叩いた。そして「ちょっと待ってて。私も紹介したい人達がいるから」と言って、その場を去った。

「珍しいな。っていうか、初めて見たな。聖がナンパしてるとこ」
「ナンパじゃないよ」
「いやいや、いいことだよ。お前、あんま人に興味持たないもんな」
「それはまあ……ほとんど同じような会話になるから、話す意味ないなと思って」

 聖の本音に対して、晟は肩を揺らして笑う。

橘右近をシェアで応援!!

ご感想・コメント、ぜひお願いします!

■ランキングサイト(クリックしてくれると嬉しいです!)
にほんブログ村 小説ブログ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

言葉で傷つくこともあれば、救われることもある。言葉の力を信じて、文字だけで伝える「小説」で人生をプラスに変えることを使命とするインディーズ小説家。※画像は恋愛ファンタジー小説【アザナカミ】のヒロイン、玖堂有羽です