体が引き裂かれそうな痛みと熱だった。
 どこか懐かしくもあり、思い出すと胸が苦しくなる痛み。
 それは、大切な人との別れの合図。遠藤えんどう遼太朗りょうたろうの命のともしびが消えたと感じた恐怖。二度とは体験したくないあの出来事とそっくりだった。

 朧が長命になる妙薬として様々なところから狙われていることは知っていた。字守として活動できるように訓練している間でも、それは認識していることだった。
 でも、いざその刃が自分に向けられた時の恐怖は想像もつかないことで。殺意というものは、例え武器を手にしていなくても、それ自体に拘束する力があった。身が凍る思いとはこういうことなんだと、頭の片隅で思い浮かべる自分がいた。

「有羽、走れる?」

 遼太朗の声で我に返った有羽は、震えなのか区別できないほど小さく何度も頷いた。
 立ち上がろうと右足に力を入れると、利き腕に激痛が走った。構わずそのまま踏ん張ると、遼太朗が心配そうに手を差し出す。

「ありがとう。大丈夫」だって、私の体の中には朧があるんだから。その言葉は口から出されることなく飲み込まれた。なんとなく、言ってはいけない気がした。
 つい先程その事実を明かした時の遼太朗を思うと、言えなかった。なぜかはわからない。でも、自分よりもショックを受けていた遼太朗に言えるわけがなかった。

 朧があれば、ちょっとした傷ならすぐに癒える。致命傷を負ったとしても、命を落とさずにいられるほどの回復力をもつことができた。
 30分ほど前に受けた傷は、通常ならば完治するまでに数ヶ月はかかるだろう。確かに痛みは強い。だが、自分の足で走るに耐えられるほどの程度になっている。そして、一瞬でも出せたあの光。これが朧でなければ説明がつかない。

「やっぱり、狙いって私たちだったのかな?」

 闇の森の中を走りながら遼太朗に尋ねた。彼は静かに肯定する。
 敵は朧を欲していた。それを扱う字守を一人でも確保できればよかったのだろう。だから字守のシステムを利用した。
 それだけのことだ。
 それだけの……こと。

「──っ!!」

 突然、鋭い痛みが左のふくらはぎに走った。先の尖った木の枝が土に刺さっている。
 遼太朗も足を止め、息をひそめて辺りを見渡す。背中合わせに立ち、神経を研ぎ澄ませた。
 1,2,3……
 考え事をし過ぎた。いつの間に囲まれてしまったのだろう。

「有羽、ここは俺が食い止める。何とか隙を見つけて逃げて」

 不意に遼太朗が囁いた。

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言葉で傷つくこともあれば、救われることもある。言葉の力を信じて、文字だけで伝える「小説」で人生をプラスに変えることを使命とするインディーズ小説家。※画像は恋愛ファンタジー小説【アザナカミ】のヒロイン、玖堂有羽です