子供の頃から毎年もらっていたバレンタインのチョコレート。
 お隣さんだからという、ただの義理チョコだった。

 去年も、OBとして母校である高校の部室に顔を出した時、集まったメンバーたちと一緒に食べた。
 テーブルの中央に、徳用物のように山盛りに積まれたチョコを一つつまみ、何とも言えない気持ちと一緒に飲み込んだ。まるで試食品を食べたような感覚だ。

 だけど、今年は違う。

 授業が終わり、冷える空気の中、大学を出た。
 校舎を出て門へ向かう途中の道に、彼女はいた。
 白い息を吐き、ひょいと上げた視線の先に待ち人の姿を見つけると、顔をほころばせて手を大きく振る。

智孝ともたか兄ちゃん!」

 有羽ゆばと同じように微笑んだ俺は、速度を上げて歩み寄った。
 一歩半の距離をおいて、有羽は両手を差し出す。手には綺麗に包装された箱があった。

「ハッピーバレンタイン!手作りだから、ありがたく頂戴するように。──なんてね」

 俺は右手でチョコを受け取り、その勢いで彼女を抱きしめる。
「ありがとう」と心を込めて囁くと、有羽は嬉しそうにくすっと笑った。
 もらったチョコレートのように甘い時間だ。

 それから俺たちは手をつないで歩き出した。

 愛しき人よ。
 いつまでも、側にいて微笑みかけて欲しい。
 温もりを感じられる、この距離で──

 

愛しき人
著者|橘右近

 




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ABOUTこの記事をかいた人

言葉で傷つくこともあれば、救われることもある。言葉の力を信じて、文字だけで伝える「小説」で人生をプラスに変えることを使命とするインディーズ小説家。※画像は恋愛ファンタジー小説【アザナカミ】のヒロイン、玖堂有羽です