「ねえ、彩先輩。先輩の家はお雛様とか出すの?」

 海白彩は樫倉晟の誘いを受けて、彼の部屋へ遊びに来ていた。
 クッションの上に座っている彼女の隣りに腰を下ろした晟はそう質問すると、彩は微笑んで「もちろん」と答えた。

「じゃあ…ひし餅とか、あと白酒なんかも?」

 なぜそんなことを聞くのか後輩の意図が判らなかったが、その問いにも首を縦に振る。
 すると晟は意地悪そうな笑みを口元に浮かべてこう切り出した。

「ところで彩先輩。お供えするものにどんな意味があるか知っている?」
「えっ?…考えたこともないわ、そういえば。晟くんは知っているのかしら」

 意味を理解しているからこそ、こんな質問をするのだろうけれど。そう彩は思いながら聞く。
 晟は雛あられについては不明なんだけど、と前置きをした後に「ひし餅と白酒はね──」と彩に耳打ちをする。
 囁かれた、あまりにも衝撃的な単語に顔を真っ赤にして彼女は身を退(ひ)いた。

「なっ…何?やだ、それ、本当なの?」

 狼狽しながら聞く女性に笑みの表情を崩すことなく頷く。

「少なくとも俺はそう聞いたことがあるよ」

 そう言うと自分から少し離れた彩の側へ近付き
「真っ赤になってる。彩先輩ってば可愛い」
 笑いながら髪を撫でる晟をむくれたような表情で睨(にら)んだ。と、その視界が揺らぐ。

 気がつくと男性の胸に引き寄せられていた。
 もうひとつ先輩に教えたいことがあって。耳元でそう囁かれて彩は身を固くした。

「今度は何?」

 問いには3月3日はどんな日かという質問が返ってきた。

「ひな祭りでしょ?女の子の成長を祝う日だと思ったけれど」
「一般的にはね。でも本当は子孫繁栄を意味しているんだよ」

 だからさ、と身体を離して瞳を正面から見つめる。その真剣な表情に気圧(けお)され、彩は静かに次の言葉を待った。

「その伝統は大切に守るべきだと思う」

 言いながら押し倒されて、彩は小さく悲鳴を上げた。
 俺達も昔に倣(なら)って子孫繁栄に励むべきなんじゃないかな。晟は言葉をそう結んだ。
 一瞬の空白。
 直後に大きな声を出して驚きを表現した。

「ちょ…ちょっと待って。そんなこと急に言われても心の準備って云うものが───」

 頬を染めて小さく抵抗する彩が可愛くて、くすくす笑いながら問い掛ける。

「じゃあ心の準備が出来たらいいの?」

 その言葉に組み敷かれている眼下の女性は口を噤(つぐ)んだ。
「いじわる」。囁くように口にする彩の唇にそっとキスを贈った。

END

ヒナ・マツリ|桜左近

橘右近の類似作品【はちみつの時間―甘い言葉を囁かれて―(R15推奨)

 

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Novel

99.7

音楽と共に選択肢によって進めるストーリー展開となっています。「アザナカミ」の世界観や主要キャラクターを知ってもらえればと思います

 

字守(旧ver.)

❚あなたの生きる意味は、必ずあるよ。

彼は残す、その力を、勇気を、智恵を。
私はつなぐ──その命を。

人の負の感情にとりつき、その感情を増殖させる『はく
実体はなく、精神を破壊するその存在は魔と呼ぶにふさわしかった。
魄にとりつかれた者は、感情を表す言葉を食われていき次第にその身を滅ぼしていった。
対して、その魔を浄化させる力を『おぼろ』と呼び、石を媒体として朧を操る人を『字守あざながみ』と呼んだ。

字守によって救われる人々。
しかし、人あらざるものの力──朧を使うことの代償は、同じく感情であった。
字守と魄。
相対する二つの力が、今ぶつかる──

 

目次

■第1話 謎の招待状
SCENE1:ざわつく心 / SCENE2:アクシデント / SCENE3:恐怖の始まり / SCENE4:出会い / SCENE5:飛行機ごっこ / SCENE6:記憶、力の暴発

■第2話 魄と朧と鬼と人形リーズ
SCENE7:意外な真実 / SCENE8:準備 / SCENE9:興味 / SCENE10:必要なこと / SCENE11:リーズという存在 / SCENE12:賭け / SCENE13:秘密

■第3話 鬼が消えた日
SCENE14:出発前 / SCENE15:出迎えた者は? / SCENE16:かわいい天使 / SCENE17:未知なる体験 / SCENE18:流天vs字守 / SCENE19:鬼の血

 

短篇集

❚色んな感情を疑似体験しよう。

現代ファンタジー、恋愛、人間ドラマ、青春、シリアスなど、多岐にわたるジャンルの短編小説を掲載。

■先生!恋愛小説の書き方教えてください
小説を書いたことのない私でも書けた。自分を知るために。──浮気をテーマにした小説の書き方の小説。
1 / 2 / 3 / 4 / 5(完)

私は『悪』になる
悪というのは、常に笑っていて、常に自信満々だ。必要悪である彼もまた、自分の正義を楽しんでいた。

契りの果ては
籠女かごめの話

15個のカノジョ
僕たちは二人で一人の作家であり、クリエイターであり、エンターテイナーだ。僕らは時にぶつかり、時に融合し、最後に壊した

廃棄処分にして下さい。
私は欠陥品だった。だけど、私は幸せだった。

僕の初めては113秒。
「楽しくもなくつまらなくもなく生きて、意味あんの?」その一言が僕を変えた。ある日、男はそう僕に言った。そいつと出会ってから僕は、毎日の「初めて」を切り取るようになった。そして気付いてしまった。僕に生きる意味はあるのだろうかと──

R18作品目次
性描写、または暴力的なシーンがあるため、年齢制限をつけました。目次が認証画面となりますので、必ず確認をして下さい。本編を読むためにはパスワードが必要です。

君がいたから
失って初めて気付く、その存在の大切さと秘めた想い。人を愛するというのは、どういうことか?を描いた恋愛人間ドラマ。★とある出版社のコンクールに出品し、『準入選』を頂きました★

女という性、紅の血
高校が舞台の恋愛ストーリー。彼女のいる人を好きになった野中泉のなかいずみ。彼女の起こす行動に主人公の聡子さとこは血が騒ぐのを感じた。女性は何故『思い出』を作りたがるのか?その真相を描きました。

麗らかな恋の花
短編恋愛小説。ほのぼのとしています。人は自分に足りないものを補い合うために出会い、別れを繰り返す。その中で誰か、何かを愛する。

 

Len*Ren

❚甘いひとときに包まれたい

※長編小説【字守-アザナカミ-】のキャラクターのアナザーストーリーです
・・・15歳以上推奨作品
■・・・全年齢対象作品(新作順)

 

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ABOUTこの記事をかいた人

インディーズ小説家。橘右近の相方=心の友です。ファン第一号